乞食の話/プル式
ティースプーン2本が
彼の人生の全てだった
安いアルミで出来たそれは
既に古ぼけ
2本重ねてもぴったり合う事は無く
カチカチと無機質な音を鳴らした
男はそれが好きだったし
いつもポケットの中で撫で続けた
それが有る限り男は幸福だったし
全てが順調に過ぎている様に思えた
ある日
多分衣替えか何かの折りに
男はティースプーンを忘れた
彼はどうしようも無く不安だった
落ち着こうとポケットに手をやり
カチカチと言う無機質な音を探したが
それは何処にも無かった
その事がまた
彼をそぞろにした
家に帰った彼は
ティースプーンを探した
しかし上着に在ると思ったそ
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