「その海から」(71〜80)/たもつ
 
話ができるくらいの距離で


78

駐車場を指で触っている
紙の上では革命
逃げ場のない独裁者は
「うみ」と書いて
その中に飛び込む
何事もなかったかのように
さっきから
自転車が壊れている


79

失踪した運転士をさがして
モノレールが夜の街を走る
私たちはは美味しいご飯を
食べたかっただけなのに
食器を指紋で汚し続けた
明日の朝は早く起きて
入道雲を捕まえに出かける


80

喉に刺さった魚の骨を
抜いている間に
弁当屋は解体され
更地は売りに出された
水族館ができるといいねと
子供たちは噂し合った
海も川もない街だった
それでも風だけはいつも
豊富に吹いた




   グループ"詩群「その海から」"
   Point(6)