湧出/英水
七月の雨上がりの午後/ 煮沸されるコンクリート
防水シートが波のようにうねり
ステンレスパラペットで囲われた放課後の屋上/ 脱皮するコンクリート
(目をつむって/ 目を圧すと、脳に湧く東京
(十秒数えてそうすると、/ 耳を圧すと、三半規管に満ちる東京
(どんなところでも行けちゃうよ/ 皮膚を圧すと、床に散らばる東京
そう教えてくれた
彼女は。
今、赤いセダンに乗り込み
サイドブレーキをゆっくりと降ろす/ 引鉄
葛の葉が、コンクリートの割れ目を伝う/ 緑/ 体液
川蝉が、飛び交っている/ レインボーカラー/ 体液
(もう帰れないかもしれない)
そして、口を硬く圧し溜まり、歯の隙間に滲む赤い東京
匂い
東京という匂い
東京という匂いが湧いてこない
ドブの匂いがプンとする
桃色のコンクリートだ/ 桜だ/ 春だ
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