今日、電車の中で思いついた言い訳/ベンジャミン
 
その女の人は、ずいぶんと寡黙な人で
その寡黙さが
しきりに語りかけてくるのを
熱心に聞いていた

薄い手のひらでくるまれた
さらに繊細な指先は
紙袋のひもに引き伸ばされて
青く静止している

そろえた膝の隙間にある
隠すことのできない恥じらいは
偽ることを知らないでいる

聞かれたことだけに首を傾け
聞かれたことだけに動く唇

横顔を区切る前髪を
ときおりかき上げる仕草は
一つずつ会話をめくってゆく

それ以上に

たどれない視線を流す瞳の奥や
さらには勝手にたわむれる毛先やらが
しきりに語りかけてくるのも

別れ際
その人の後姿が
「また会いましょうね」と読めてしまうことにも


当たり前に、うなずいてしまう




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