夜の地下鉄は海の匂いがする/ベンジャミン
 
ふと遠いところへ行きたくなる

通過電車に手をのばせば届きそうで届かない
本気で身を乗り出すと本当に連れ去られてしまうから
「危険ですから、黄色い線の内側までお下がりください」
というアナウンスに
いったいどっちが内側なんですかと呟いてみる


夜の地下鉄は
海の匂いがする


記憶をたどってゆくと懐かしさは塩辛い味がして
それが鼻の奥をつんと刺激しているのだと
となりで一緒に電車を待っていたおじさんは
もうすでに溺れかけていて
きっと早く楽になることばかり考えているのだろうけど
それは大きなお世話だとわかっている


夜の地下鉄は
海の匂いがする

[次のページ]
   グループ"タイトル長いー詩"
   Point(53)