海の瞳/未有花
心の中の海が騒いでいる
いつまでも鳴り止まない潮騒
僕は不安でたまらなくなる
こうして本当の海を眺めていても
聞こえて来るのは僕の心の潮騒か
それとも目の前にある海の波の音か
それさえもわからなくなって
思い出すのはどこまでも深い海の瞳
妖しくきらめいて僕をみつめていた
あの嵐の夜に見たあれは幻
荒れ狂う波の彼方で出会った美しい人
あの人の冷たい肌の感触を
今でもよく憶えている
それはとても冷たかった
まるで氷の腕に抱かれているみたいに
僕は寒くて寒くて震えていたんだ
ただ波に揺れる緑色の髪と
海のような瞳だけはとても綺麗で
遠くなる意識の向こうで
僕はそれだけを夢に見ていたような気がする
あの日の出来事がまるで嘘のように
海は穏やかに凪いでいるけれど
きっとあの人はこの海のどこかで
僕を見ているにちがいない
僕の心の中で今もざわめいている
潮騒を静かにみつめているんだ
あの海のように深い瞳で
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