ふゆのさかな・3/銀猫
 
その水、に違和感を覚えて
やみくもに辺りを手探りすると
両手(否、ひれだろうか)は
ぬるい水を掻き混ぜながら
うっすらと視界を灰緑色に濁らせた


朝の慣例に従い
唇に色を挿して
黒く固い靴を履いても
まだ水、はよそよそしく
水面近くをうねるひれが
刃のような心地さえしている

きっと今もあのさかな、なの、だ

かなしみの理由も
渇いたこころの内の暗雲さえ謎のまま
ひらひらと泳ぎ
少しずつ鱗が剥がれかけている

かな、し、い、さかな

誰かにそう名付けられるのを
どうやらわたしは
待っている

この水は
ぬるいよ
藻が揺れるよ

この水は
錆の匂いがするよ
なんだか、するよ



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