武士のつかい/佐野権太
朝起きると武士だった
(拙者、もうしばらく眠るでござる
と、布団を被ったが
あっさり古女房に引き剥がされた
長葱を購(あがな)ってこいという
女房殿はいつからあんなに強くなったのだろう
*
八百屋には、あいにく長葱がなかった
大人買いだろうか
しばらく思案して、代わりに
ふくふくと太った大根を手に取った
やれやれと店先の販売機に小銭を落として
『珈琲』を押すと
ガタゴトとあきれ顔の『お袋』が出てきた
(長葱を頼まれて
(大根を抱えて帰る阿呆がどこにいるか
と、こっぴどく叱られた
あたたかい方を押すべきだった
*
懐で水戸黄門のテーマが鳴った
[次のページ]
前 グループ"武士道"
編 削 Point(58)