はるだし(私立探偵編)/佐々宝砂
 
春は死にかけている
ぼそっとつぶやいて探偵は
ブラインドの隙間から夕陽を見た

まともにブラインドを開けて見りゃーいいのにと
読者は思うかもしれないが
これはこの探偵の美学であり習慣であるのでお許し願いたい

実際この探偵は
行く春のことなぞかまっちゃおれないはずなのだが
(死体がみっつ 情報屋は行方不明)
探偵が所属する固ゆで卵協会は
毎夕こうして夕陽を見ることを奨励しているのである

だからムスリムが定刻に祈りを捧げるごとくに
探偵はこうしてブラインドの隙間から夕陽を見
それから協会会則どおりにちょっと感傷的になってみるのだ

私立探偵に感傷の種は事欠かない
死体がみっつあるし情報屋は行方不明だし
それにもちろん
春だしねえ
   グループ"Light Epics"
   Point(4)