ピュグマリオン/佐々宝砂
、
はっきりしない歌声が聞こえた、
石と羽根をつめた布団にくるまっているような、
複雑な感触が肌に感じられた、
味と臭いは特に感じられなかった。
魂に似た何かが彼女の奥に蠢き、
欠損の痛みを訴えた。
彼女は状況を把握していない。
彼女は知らない。
自分に何ができて、何ができないかを。
彼女は接続されていない。
彼女は灰色の漿液のなかにゆれている。
彼は状況を把握している。
彼は知っている。
自分に何ができて、何ができないかを。
彼は優秀な技師だ。
気軽げに鼻唄をうたいながら、
彼は脚を用意する、
腕を用意する、
自分好みの乳房も、
大きな瞳もくっきりした鼻梁も用意する、
くちづけのための愛らしい唇も用意する、
声も用意する、
彼女の容貌に似つかわしい、
耳に優しいクリスタル・ボイスを。
それだけあれば完璧だ、
と、
彼は思っているが、
灰色の漿液のなかでは、
むくむくと欠損が育ってゆく。
前 次 グループ"Light Epics"
編 削 Point(3)