春紅葉(おまんとくれは、その弐)/佐々宝砂
乱れた裾をからげて、
少女は細い山道を下る。
淡く青い春の匂いが満ちている。
その春の匂いに、
突然あまく重苦しい香が入りまじり、
こむすめ。
こっちに来い。
声の主はと探せば、
白面に唇をどぎつく赤く塗った、
都風の女である。
その隣に恐ろしく大きな女がいる。
少女の父親より一尺は上背がある。
噂に聞く鬼だ、と思った。
少女もその名は知っている。
鬼のくれは。
鬼のおまん。
気弱なたちではなかったが、
少女の身体はもう動かなかった。
頭の芯がくらりと酔った。
こむすめ。
こっちに来いと言うのだ。
都風の女は大女に顎で合図し
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