扉をあければ/佐々宝砂
うので
お愛想済ませて
店を出る
いまだ土葬の風習が残る
山あいの村の
人間はおろか魔物一匹通らない
さみしい道を
民家どころか街灯ひとつない
林道を
とぼとぼ歩いて
たどりついて
扉をあければ
わたしの現実
まだらにぼけた父と
預金の降ろし方さえ知らない母と
十年というもの部屋に籠もったままの弟と
それでもわたしは扉をあける
父でもない母でもない弟でもない
魔物ですらないものにとらわれ命じられて
わたしは扉をあける
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