ぼくがいる証拠/アンテ
 
い説をとなえ
困ったフリをして風船を捨ててしまうだろう

次から次へと
人がやってきて
風船の大きさを測ったり
指で押したりする
風船の色について論じる人もいる
けれど最後は同じ
さよならも言わずに去っていく

割れる
と思った瞬間
ぼくの手から風船が舞い上がる
ぶるるるるるぅ
螺旋を描いて長い息を吐ききって
ゴムが萎んで
風船はやがて落ちてくる
居合わせた人たちは一様にため息をついて
目のやり場を探す

ポケットから新しい風船を取り出す
大きく息を吸い
ゴムの口に吹き込む
ぼくがいる証拠に
すこしだけ膨らむ
最初はいつだって楽しい
みるみる大きくなるのが判るから

いつの間にか
人の姿はどこにもない

吸うまえの空気と
吐く息は
なにがちがうのだろう

ぼくがいる証拠に
くたびれた風船が地面に転がっている
人々に踏みつけられて
泥だらけだ
いくつも
いくつも


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