鳴家/佐々宝砂
 
鳴家(やなり)という言葉よりさきに
ラップ音という言葉を覚えてしまった。
部屋の片隅なにもないところで
ごく局部的に温度が上昇または下降し
はっきりと物質化したエクトプラズムがあらわれ
というような現象と一緒に覚えたのだったが、

生憎とわたしの家に不可思議な現象は起きなかった。
ただ、毎日、妙な音は聞こえた。

クルックスは幸せだったと思うのだが
フォックス姉妹が幸せだったかどうかはわからない、
ティーンエイジのわたしはそれほど不幸ではなく
さりとて幸福いっぱいというのでもなく
誰かが命じてくれるのをひたすらに待っていて、

悲しみなさい。
恐れおののきなさい。
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