創書日和。縁 【世界の縁に立つ三つの肖像】/佐々宝砂
1.
高く掲げた手のさきには指がなかった
ただ丸い肉塊である手は
指を持たぬのに天を指さした
天下人と呼ばれた男は
その指のない肉人を
食えばよかったのに食わなかった
食われなかった肉人は
コトバによる点線で描かれた画となって
駿府城の石垣に潜む
足のある蛇たちが
石垣をにょろつく朝も
決して積もらない風花が
はらはらと光る朝も
ナンキンハゼの赤い葉が
かろうじて枝にすがる朝も
肉塊はしずかにねむる
指のない手で天を指さす肉人よ
まだ時ではない
ねむれ
駿府城の石垣もまた
世界の縁のひとつではあるのだから
2.
世界の果てのレストランに
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