創書日和「指」/虹村 凌
誰かと約束をしていた気がする
明け方に目が覚めた
理由はわからない
悪夢を見たわけでも
喉が渇いたわけでも
催したわけでもない
ただ唐突に
目が覚めただけなのだ
手をめいっぱい伸ばして
指先に触れた煙草を引き寄せる
気付いたら爪が剥がれていた
小指の爪が綺麗に
いつ剥がれたのか覚えていない
ただ逃げ出したように
綺麗に剥がれていた
羽毛布団を蹴り飛ばして
ベッドの上を探すつもりはない
いつまでも小指が重く痛む
まるで気でも違ったみたいに
鈍い痛みが忘れられない
何時までも慣れることは無い
まだ女の小指だけが
ゆびきりをした形のまま
爪の無い小指に絡まっている
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