1.難問(アポリア)/朽木 裕
 
うか。

誰が?

彼が?私が?


誰も救われやしない。


血に染まった右手で彼は煙草を取ろうと試みる。
けれど白いシャツを汚すことを嫌ってか、右手はそうっと下ろされた。

一歩、二歩と彼に近付いて
私は彼に口付けた、深く深く。

彼のくちびるを解放していつもの問いを繰り出す。


「私の事、愛してる?」


「それは閉口してしまう程、難問ですね」


くちびるは、いつだってこんなにも温かいのに。
彼の心はいつだって泣いているのに。

私は冷えていく指先を感じる。

どうしたら彼を幸せに出来るのだろう。
永遠に哀しみのない場所へ閉じ込めてしまえるのだろう。

どこからか聞こえるツィゴイネルワイゼン。
胎児は静かに夢を見る。
  グループ"100のメランコリィ"
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