2.低温火傷/朽木 裕
かれた軍靴が
こちらに爪先を向ける。
「死にたいか」
「…えぇ、こんな雨の日には。貴方は、」
云い掛けて云い澱む。
触れてはならない過去が口をあける。
おねがい ぼくを ころさないで
幼き日のその色を。
「失言でした、その…」
弁解を口にし掛けてまた口篭る。
色素の薄い目がこちらを真っ直ぐに射る。
路地裏はすえた匂いがしている。
ひとを、ころしたあとの、ような。
「生きるというのは尊いことだなぁ」
茫漠と呟きながら薙ぎ払った彼の軍刀。
その一寸も先には男がひとり、死んでいた。
雨が静かに降っている。
「…死ぬのならば貴方に殺されたい」
「断る」
「何故、」
「…云いたくはないな」
低温火傷のように、じわりと。
雨の中に痛みが走る。
あぁ、私はこの人を愛しているのだ。
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