足/佐々宝砂
毛と棘の陰には、
ルビーの色をしたダニが住み着いている。
八つ足はときどきギイギイと歌う。
片栗粉の袋を握りしめたときの感触みたいな声で歌う。
俺は八つ足の歌を聴いているとくるしくなる。
それで俺は八つ足を叩きのめす。
そうすると八つ足はばくばくと泣く。
羽根が欲しいと言って泣く。
足のない俺はやわな二本の腕で体重を支える。
腕は翼でも羽根でもない。
しかし八つ足があんまりばくばくと泣くので、
俺はどうしようもなくかなしくなって、
ごとりと腕を外し、
持ってゆきなと八つ足に言う。
八つ足は俺のものだった腕を振りたくり、
飛べないと言ってばくばくと泣く。
バカだなあと思うが八つ足はバカな生き物なので仕方ない。
俺は不意に八つ足が愛おしくなるのだけれど、
純白にして地上のケガレを知らぬ旗虫は、
俺たちのことなど眼中になく飛んでいる。
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