春の桟橋/塔野夏子
ほの甘い色の胞子が降りしきる午後
小さな昏い紫の遊星の影が
君の瞼をよぎってゆくのを見る
チェス盤のうえ
気まぐれに並べられた駒たちのあいだを
七角形の記憶がすり抜けるように踊っている
飼っていたあの硝子の風船
逃げだしてしまってからどのくらいになる?
銀のぶらんこがいつからかそのかわりみたいにやってきて
白い天井で揺れつづけているけれど
優しげな指の感触が窓の外に幾千もさざめく午後
扉はこのあいだ薄い緑に塗りかえたばかり
いつのまにか君の胸から
小さな桟橋がひとつのびている
そこからどんな舟がどこへ発つのか僕は知らない
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