近代詩再読 草野心平/岡部淳太郎
草野心平の詩には、生活者としての土着的な強さがあると思う。蛙や自然を謳い、一見夢想の世界に遊んでいるようにも見えるが、その実しっかりと生活に根を下ろしていて、だからこそつくりごとではないリアルな詩情が詩の中から立ち昇ってくるのではないだろうか。
百姓という言葉はいい言葉だ。
一人で百の姓をもつ。
その豪儀。
その個と。
連帯。
(「百姓という言葉」より)
こう謳う「百姓という言葉」などは、最も露骨に詩人のそうした特性を表している。恐らく蛙や自然を謳った詩も、そうした生活者としての視点から、下から上を睨みつけるように書かれていて(詳細は知らないが、草野心平はそれほど生活に余裕のある方ではなかっただろう)、そうした視点が時にアナーキーに映るのではないだろうか。生涯に実に多数の詩を残した草野心平だが、詩法の面では様々な変化があるものの、詩人としての姿勢は終始一貫していたように思える。それらの多数の詩を読む楽しみが、読者にはまだ残されている。
(二〇〇六年一月)
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