猫たちの肖像画/まどろむ海月
 
、一匹のシャム猫を飼っていまし
た。毛なみは美しいグレーで、目の色は緑色でしたが、その青さの感
じが左右でいくらか違っていました。画家は猫を抱きあげるとその目
を覗き込むようにしては、誰に言うともなくこんなことをつぶやくの
でした。「いいかな、いちばん大切なのは富でも地位でもない。愛じ
ゃよ、わかっておるかの。おまえさんの目はいつも深い湖水のようじ
ゃて。やっぱり左右でいくらか色が違うのう。湖水の底に小さな明か
りがちろちろ燃えている気がする。これは焚火かな。焚火に向かいあ
って座っているように見えるのは若い男女かな。・・・ほほう、見つ
めあっとる。・・微笑みあっとる。わしゃあ、目がおかしいのかな。
幻かな。」画家は猫を床に降ろすと腕組みをした。「・・わしももう
ろくしたかな。まあ人生は夢みたいなもんじゃが・・・。」

 猫は背を向けてあるきだすと、尾で?を作りながら、ゆっくりと部
屋の隅の闇の中に消えていきました。





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