私の隣に幽霊が座っていた/岡部淳太郎
 
いるからなのです
だからといって
私は幽霊に取り憑かれているわけではなく
私自身が幽霊のような存在だというわけでもなく
ただ単に
たまたま私の隣に幽霊が座ってしまっただけなのです
私の隣の幽霊の存在をみんなが感じて
よそよそしい沈黙の中に潜んでいる間
私は私の隣の空っぽの座席を見つめます
そこに座っているだろう幽霊の
越し方と行く末を思います
彼 または彼女は どんな因果で
この電車に乗りこむことになったのでしょうか
ここから先
いったいどこまで乗っていくつもりなのでしょうか



真夜中の
回送電車は
幽霊たちで
無言の座席がすべて埋まっている
どこから乗ってきたのか
どこまで乗ってゆくのか
幽霊たちが
無言の座席に黙って座っている



(二〇〇五年九月)
   グループ"その他の幽霊"
   Point(17)