死神と私 −回転木馬−/蒸発王
 


右手にチョコレイトはありませんでした
代りに隣りの青年が白い包みのマシュマロを投げてきました
やっと眼鏡をかけた瞳と視線が合います
震えた唇でその人の名前を呟こうと
息を呑んだ時


金色の光の渦が私の意識を奪いました


回転木馬が唸りをあげて止まります
フェンス越しに立ってる死神が
“月夜の回転木馬には『運命の人』が乗っているのですよ”
“会えましたか?”
と呼びかける声が聞こえました


文句を言ってやろうとフェンスの外を見ると
死神の後に見覚えのある顔が私を見ています
そう
先刻まで隣りの木馬に乗っていた
彼が
夫が
立ちすくんでいました




“回転木馬は月夜が本番ですよ”

という死神の冷やかしも無視して
私は彼のもとに走っていきました






   グループ"死神と私(完結)"
   Point(7)