身体の物語/アンテ
 
方で
非常時の切断機を手に取ったが
自分の胸から下を切り落とすことなど
どうしてもできなかった
雨に打たれながら
たどり着けなかった木々を見あげると
どの木のうえにも人がいて
静かに彼女を見下ろしていた
逃げ遅れた彼女を嘲笑しているのかと思ったが
よく見ると彼らには身体がなく
頭部だけが不自然な状態で木の幹から生えていた
地面に沈み込んだ部分の感覚が次第に薄れ
肩や腕も地面に呑み込まれて
最後に残った頭部も
ゆっくりと泥水に沈んでいった
地面に転がった切断機の刃が
冷たく光っていた
いったいなにを間違ったのだろう
どれだけ考えても判らなかったし
やがてそんな思考も途絶えて
水たまりはただ
無数の波紋をたてつづけた
雨が降り止むまで
それはただくり返され
やがて
雲の切れ間から陽が射した






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