時計の針は戻らない/和泉 誠
 
影は
もう少しも残ってはいない

あんたこれ食べなさい
母さんは誰も箸をつけていない黒豆を
スプーン一杯に僕の皿に盛ろうとする
そんなに食べないと僕は抗議した

話についていけずに
寂しそうにただ料理を食べる祖母
たまに会話に紛れ込む言葉はトンチンカンで
そうだそうだとそれに頷く親父の言葉も的を得ない

誰も箸をつけていない黒豆となますを
一人で黙々と食べる母さん
それを見習って僕も自分の皿に
こんもりと盛られた黒豆に箸をつける

私は小さい頃を思い出していた
昔は正月になると親戚みんなで一緒に
祖母の家ですき焼きを食べた

おじちゃんがすき焼きにお酒を
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