橋/岡部淳太郎
 
のだ。鳥よ、飛べ。枯葉よ、落ちろ。僕は君たちの速度よりももっと速く走ろうと欲する。肉の中の血が先祖の記憶を顧みてはうちふるえている。走る走る、僕が。吹く吹く、風が。光だ。出口だ。柔らかい、夏の終りの光が、目の前から射しこむ。歌だ。光だ。光。出口。光る明日。光る。
母さん!
僕は
森の外に出た。
ついに
僕は僕をふりきった。
目の前に 橋がある
僕がたったいま駆けぬけてきた森の
樹を切って造った 短い橋
橋の下には優しいせせらぎの
川が いまは静かに流れている
橋の向こうには広々とした
草原と その中にたたずむ雉子が一羽
たしかに 夢は終った
脚韻ににじんだその疲労は
消えないかもしれない
だが 夢はふたたびみたび生まれる
そのよろこびを脚韻に染みこませて
歩くことが きっと出来る
ただぼんやりの夢ではなく
明らかなしたたかな 計画を
たしかに歩くため
僕はもう森をふり返らない
僕だった森をふり返らない
夏は終った
新しい季節を見すえて
草原を目指して

僕は 橋を渡る



   グループ"散文詩"
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