橋/岡部淳太郎
を持っているのがはっきりとわかる。やめてくれ。僕の僕からの逃走を邪魔しないでくれ。鳥が、たった一羽の鳥が走りながら見上げる僕の眼の中に映る。つい先程までの僕には、彼の飛行に憧れる資格などまるでなかった。だがいまの僕には、走りながら見上げる眼の中に飛ぶ彼の姿を、記憶の底に焼きつける義務がある。そして僕は走る。森の出口を求めてひたすら走りつづける。僕の体をよぎるのは風。背後に澱んだままの森の古い空気を、その壁を突き崩すために吹くささやかな革命の風。枯葉を舞い上がらせ、樹々の枝をふるわせて、僕の走る速度に伴奏をつける、夏の終りの新しい風。
夢は終った。その疲労さえも快楽であると知ることが、僕の本当の意
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