蒸し焼きの雨/岡部淳太郎
雨に濡れるのを忘れた人が、信号の前で返り血を浴びている。どんよりと、ただどんよりと生きていけ。おまえの夜の病はいまだ進行中だ。魚群探知機に映る影の人びと。探そうとしてもけっして探し当てられない影の呼吸。街の色のない暗さの中で、おまえの一日は、最初から鮮やかに暮れている。
六月の、脅えたような雨の中でしずしずと歩く。鳥は低空飛行を繰り返し、見えない虫を啄ばんでいる。雨は低空から落ちてきて、父の名で路面を濡らしている。ゆっくりと、ただゆっくりと狭まってゆく境界。鏡の中の、おまえの顔は曇っている。鏡の空の、おまえの星は隠れている。
この雨の中、歩く距離が遠くなると、そのぶんだけ暑くなる。おま
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