帰ってくる夏/岡部淳太郎
、ゆっくりと落ちてゆくような旅立ちでした。
*
いまはもういない妹と、生まれてこなかった弟のことを思い出して、やけに感傷的な夏になりました。いつも夏が来る度に、死者たちが帰ってくると言います。水に染まった死者と、渇きで喉が破れた死者と、それらの亡き者たちが、夏になると帰ってくると言います。ふるいしきたり、ささやかな信仰の一部であるのでしょう。ほら、見てください。私の弟が、生まれてこなかった私の弟が白い鳥になって、ふわふわと舞っています。その鳥の翼の周りで踊るようにきらきらと輝く光の結晶、夏の日差し生まれのその光は、もしかしたら、私の行ってしまった妹なのかもしれません。
*
帰ってくるよ
夏が帰ってくるよ
この火で埋められた季節に
死者たちが帰ってくるよ
夏は白くてどこまでも眩しいよ
帰ってくるよ
夏が帰ってくるよ
すべて白い
白すぎる夏だよ
(二〇〇五年八月)
前 次 グループ"散文詩"
編 削 Point(16)