帰ってくる夏/岡部淳太郎
ょう。あれは私の、生まれてこなかった弟なのです。
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この間、はじめて母から聞きました。私に生まれてくるはずだった弟がいたことを。生まれていないのに弟と決めつけるのもおかしなものですが、私の非論理的な直観に従うところによれば、それは絶対に弟でなければならないのです。だから、私はそれを弟であると信じているのですが、私には妹がいます。いえ、より正確に言えば、私には妹がいました。三十数年の長いようで短い時を、それぞれを世界での唯一の味方として、過ごしてきましたが、世界で唯一の兄妹だったのですが、妹はある時に生からふわりと旅立ってしまいました。何も残さない、あるいは多くのものを残しすぎての、ゆ
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