藪 より/沼谷香澄
すれ違うバスに手挙げる運転手その手袋に染み付いた夏
図鑑開けばマツヨイグサの花の上カミキリムシが交尾したまま
くねくねとうるさい耳に触れながらオレンジ色の雲を見ていた
浜道の路肩にタイヤ乗り上げる名を知らぬ浜選んであなた
夏山の緑 緑はこんなにも得体の知れぬものだったのか
アスファルトの上を覆った熊笹に触れてもいない脚がかゆいの
天井は青空だったああ待って、雲の部分に虫が死んでる
ミュールの泥が落ちてなんだか嬉しくてベッドの上を歩く。ざくざく
カーテンを開けてみようよ目隠しの板が癒しの香を放つでしょう
くるいだす海の色粒 太陽が刻一刻と意地悪になる
初出: Tongue 第1号 2003年10月12日発行 原文縦書
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