思い出/……とある蛙
懐かしいという言葉を話すと
鼻の奥がツンとくる。
春はまだ来ないが、
冷たい風が吹いている。
君と二人、風に乗って行けるものなら、
君の生まれ故郷のこけし橋の欄干に行きたい。
僕には故郷などなく、都会の中の谷のある町。
高台のお屋敷町の外れの崖の下の子供だった。
あの頃の七人家族は
もう二人っきりになってしまった。
思い出は美しいが、現実はゴミだらけだ。
過去には戻れないが、
未来の終着駅はもう透けて見える。
そして、二人で過ごすうち、
思い出は指の隙間からこぼれ落ちて行く。
でも神さまが幾らかの綺麗な思い出を残してくれるなら
神様が少しだけ残してくれるなら、
その思い出だけを頼りに、これから生きて行くのも悪くない。
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