詩集『十夜録』全篇/春日線香
 
て家に帰る
でも家はない
家はもうどこにもない
戦争が五つも六つも過ぎる間に
燃えてしまったのだ
長い長い時間が過ぎたのだ
女の子が老婆になるほどの時間が





 お玉

庭で武将が跳ねまわっている
敵が来るから加勢しろという
大慌てで縁から出て
どうすればいいのかと聞くと
とりあえず今日のところはこれで
火を消すのだ とお玉を渡される
見れば裏の家が燃えている
家が燃えているのに
お玉はないじゃないか と文句を言うと
武将は怖い顔で睨みつけてくる
次はお前の首だぞという風である
急いで井戸に走り寄って
お玉で水を掬い上げようとする
けれど
[次のページ] グループ"十夜録"
   Point(6)