詩集『十夜録』全篇/春日線香
寄り集った影が
名前も明かさぬままに
秋刀魚の腹を
箸で探りはじめる
賽(さい)の原
焼かれている途中で
目を覚ます
こともあると語りあった後
夜にかけては
怒った牛の悪魔になって
土の中から
きれいな骨を選り分ける
ひとつふたつと
数えていけば
釘で書いた字のように
細い身をよじらせて泣いたり
歌ったりしているのが
ここにも幸せはあったと
よくわかる
満ち干が正直なときは
どこか遠くで流された
魚の血が混じり
やがて運ばれてきた海流に
素足をひたし
舟を浮かべて
どこまでも行こうと
たがいの瞳を覗く
二匹の牛の
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