冬の熱量/平瀬たかのり
 
 いくら追い込んでも
 届かないままの馬が
 逃げたのだという

 土日はずっと仕事だから
 もうずっと競馬中継は見ていないし
 そもそも
 もはや預金残高ゼロ円だ
 賭けようたって、な

 だからその馬を今、思うのか
 一九九三年一月二十四日、中山競馬場
 アメリカジョッキーズクラブカップ後の
 上気していた頬
 滲んでいた涙
 ひしゃがれた声
 かたく握られた拳
 換金されなかった百円馬券
 つまりは
 ウィナーズサークルが孕んでいた熱量を
 その日の寒さを知らないままに

 いくら追い込んでも
 届かなかった馬が
 逃げ切ってしまったのだという
 
 一月も末のことだ
 底冷えのする一日だったか
 肌を刺す風は吹いていたか
 葦毛からもうもうと湯気は立っていたのか

  (ホワイトストーン)
   グループ"草駿譜"
   Point(4)