洋子ミーツ青春千五百メートルランナー/平瀬たかのり
 
 あごを上げ、足をもつれさせるようにして
 目の前を過ぎていく
 わたしのほかに見ているひとはだれもいない

 直線走路
 三千メートルでインターハイに出場した
 ベリーショートがきみを
 見えないもののように追い抜こうとしている
 
 達也くんが笑いながら何か話しかけてくる
 おざなりな返事で微笑んで
 遠ざかるきみの背中をじっと見つめる
 そっと腰に手を回される
 でもわたしは思っている
 この青いビニールシートの上に
 きみが帰ってくるころ
 きっとだれもが最終種目の
 四百メートルリレー決勝に熱狂しているだろうから
 いま強く握りしめているタオルで
 汗まみれのきみの顔を拭いてやる
 この前初めて愛撫という言葉を知った
 その日のざわめく心のまま
 何度もていねいに拭いてやる

 わたしは立ち上がるタイミングをはかりながら
   グループ"お父さんと洋子ちゃん"
   Point(6)