ひなげし/はるな
 
、身に着けたものをひとつずつ取り去りながら海へ入っていく女を呼び止めて俺は尋ねる「俺は誰だ」膝から下を水につけたままで女は言う「知っているわ」「知っているわ」「知っているわ」俺はたまらず海に入り女の白い腕をつかむ「俺は誰だ」「知っているわ」「俺は誰だ」「知っているわ」「お前は誰だ」「知らないわ」女はだんだんと深いところへ入ってゆく、胸まで海に浸かっている、長い髪の毛が濡れて頬に張り付いている、気味の悪いほど黄色い顔だ、女の顔は暗くて見えない、しかしたぶん女は笑っている、俺は女の乳房に触れる、それは驚くほど冷たい、女はどんどん海へ入っていく、答えを持ったまま海へ入ってゆく、俺は女の腕をつかんだまま、海へ入っていく女を見ている、答えをもらえるまで待っているつもりだ。


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