秘密荘厳大学文学部/済谷川蛍
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仮眠室こと自習室で――。
ヨゼフ・ギーベンラート氏は、仲買人で代理人をかねていたが、別にこれといって長所や特性を持ち合わせているのではなく、一般市民と比べてちっとも変るところはなかった。一般市民と同じく、がっしりした、健康な体格の持主で商人として相当な才能を持ち、また金銭は正直に心から大切に思っていたし、さらに、狭い庭のある、ささやかな住宅と、墓地には先祖代代の奥津城(おくつき)を持っており、教会に対しては迷信的ではないが陳腐な信心を抱き、神とお上に対しては相当な尊敬を示し、市民としては安寧秩序の鉄則に対しては、盲目的に服従していたのである。
という文章で『車輪の下に』
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