【批評祭参加作品】好き勝手言わせて貰う【十年の、事実】/虹村 凌
すでに
そこに居なかった。煙りが立ち込める、駅前の
ゲームセンターのネオンの中にも身を隠したりしない。
閉じたらそれっきりの民家の扉の向こう側にも。
或いは、台風が上陸し、増水した川面に水しぶきが上がった。
僕らの内の誰かが、
盗んだ自転車を橋の上から投げ入れたからだ。
「音、聞こえた?」友だちはがなり立てた。
「聞こえねーよ。」どしゃ降りの雨に抗おうとする
僕らの表情は、笑っているようにも見えたに違いない。
その後ずっと、僕らは耳の中にまで侵入してくる雨のせいで、
水の中で話すみたいに、息継ぎもままならないままに
大声で話さなくちゃならなかった。届かせるために。
明日の
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