批評祭参加作品 ■ 芭蕉庵にて /服部 剛
 
不思議な
気持になるが、今から数百年前、確かに独りの俳聖
がこの部屋から、木々の葉を吹きすぎる風や、夜の
境内を淡く照らす月の光を観ていたのだろう。 

元旦の今日、年の初めに行った松尾芭蕉の墓前で、
昨夜の大晦日に比叡山・延暦寺でいただいた木札に
書いた一つの願いを思いながら瞳を閉じると、在り
し日の俳聖の霊魂の花は今もこの部屋の暗闇に現れ、
開花するのが観える気がする。

瞳を開けると、壁には一本のススキの陰が、頭を
垂らし、揺れていた。 




   グループ"第3回批評祭参加作品"
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