批評祭参加作品■吉野弘氏への手紙/服部 剛
 
持主はいつでもどこでもわ
れにもあらず受難者となる。何故ってやさしい心の持主
は他人のつらさを自分のつらさのように感じるから)と
心に呟くところにこの詩の核心があり、読者の心に消え
ることの無い灯をともすのでしょう。
 今から五十年前に書かれたこの一篇の詩の中にいる娘
は、いつまでも読者の心に生き続けるでしょう。そして、
(やさしい心に責められながら)電車の席に坐り、何処
かの駅へ運ばれてゆく娘に(可哀想に)というまなざし
を注ぐあなたの詩魂を、かけがえのない宝物のように、
僕はそっと胸にしまい、この詩集のページを閉じること
にします。 


  * 文中の詩は「現代詩文庫12 吉野弘詩集」
    (思潮社)より引用しました。  







   グループ"第3回批評祭参加作品"
   Point(5)