■批評祭参加作品■ 「 無言の遺書 」  /服部 剛
 
一 

 今日は一月三日で正月休み最後の日なので、昼食に餅を食べた後、
毎年必ず初詣に行く寺へ出かけた。子供の頃からこの寺に連れて来
た両親とは今も共に住んでいるのだが、二十歳を過ぎた頃からこの
寺への初詣は一人で来るようになり、それ以来、一年間神棚に置い
ていた木の札を納めに行くのは私の役目である。自転車のペダルを
漕いで十分も走れば左右に迫力ある姿で仁王像が立つ大きい門が現
れる。門をくぐって石段を上がると本堂でお経を唱える坊さんの声
が聞こえて来る。まだ三箇日ということで、石畳の境内に人々は賑
わっていた。紙袋に入れた去年の札を本堂内の大きい木の箱に入れ
た後、賽銭箱に
[次のページ]
   グループ"第2回批評祭参加作品"
   Point(5)