冬(「バード連作集4」)/光冨郁也
イト情報誌を手にし、それからほかの雑誌の表紙を眺める。手の甲であくびを隠す。ずれた眼鏡のフレームを上げる。情報誌の発売日を確かめる。情報誌とホットコーヒーを買った。外に出て、来た道を戻る。
砂浜近く、道の脇、コンクリートの上に腰を下ろす。コーヒーの缶が熱い。缶を開ける。誰もいない部屋にはすぐには戻りたくはなかった。ひと気のない砂浜。
コーヒーを飲む。缶を置き、情報誌をめくる。明日からフォークリフトの講習に行く。荷を上げ運ぶリフト。そのフォークリフトの仕事を参考のために探す。この近くにあるタバコの配送会社の倉庫。時給千円。フォークリフトとしては割がよくない。
飲み干して空になった缶をコンビニの袋に入れ、情報誌を片手に、砂浜を歩く。打ち上げられた流木をつま先で軽くける。流木の上に立つ。腕を開いて重心を取る。飛ぶ形。風が吹くのを待つ。曇り空を見上げる。女のバードが飛んでいた姿を思い返す。
砂浜に腰を下ろす。くすんだ海の上、曇った空は、冬の色。波があふれてくる。遠くで風の音がし始めたが、ここには吹いてこない。
(女の顔をしたバードは幻、もういない)
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