バード (「バード連作集1」)/光冨郁也
は、何か言いたげに、ねえねえ、と目で話す。
どうすれば、この時間を延ばせるか、わたしは、女の頬に指をあて、撫で続ける。
雨でも降るのか、窓からの風は湿り、辺りは薄暗い。無言の時間が過ぎる。サーチライトをつける。舗装された道が続く。何年かぶりに女と話したくなる、が言葉はない。車内の沈黙に、ラジオをつける。
DJの声はなく、歌声がある。
ラジオに、女は聴き入る。女の横顔は、本の表紙の精霊に似ている。首を伸ばし、翼を拡げる。目が青く、海を思わせる。その深み、に触れたくなる。
女は歌う。白い喉が震えている。その声は、わたしを眠りに誘う。ひとに死をもたらす、セイレーン、であるかもしれない
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