面接(10)/虹村 凌
みません。俺…」
彼女は目を閉じてこっちを見ている。誤魔化せ、と言っているのか。誤魔化させてくれるのなら、誤魔化してしまおう。ゆっくりと、距離が縮まる。言い知れぬ違和感を抱えたままである事を悟られないように、一瞬で済ませる。恐怖を芽生えさせてはいけない。悟らせてはいけない。冷静さを失ってはいけない。勢いだけで全てを済ませてはいけない。誰にも、悟らせてはいけない。警戒を解いてはいけない。隙を見せれば、一気に恐怖が芽生えてしまう。そうなったら、俺は正常でいられる気がしない。
次の日からも、特に何事も変わりが無かった。特に職場の他の人間の見る目が変わった訳でも、環境が変わった訳でもなく、何も無い、普通な毎日が続いていった。何も期待しちゃいない、と言ったら嘘になる。しかし、特に何があって欲しいと思っていた訳じゃない。ただ、俺自身にも変化は訪れず、相変わらず幻影との会話を繰り返し、彼女には何も言えないままでいた。俺が一方的に一定の距離を保ったまま、何日も過ぎ去った。
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