01:ふたりぼっち/chick
 
から会社に行って恋人同士の二人を横目に仕事をする自分ではないか。
 泣き止むためにいつもする想像がある。それは(ありえないけれど)この部屋で広樹とタクミがふたりぼっちになるときのことだ。きっと二人は背中を向け合っていて、そのかわいらしい背中も切ない背中も知ることがないのだ。そこに私が入っていくと、とりあえず二人は私の方を向くのだ。ふたりぼっちの背中も顔も、私が独り占めする瞬間なのだ。タクミが逃げる瞬間のむっとする広樹の顔を彩夏が知るはずもない。
 彩夏と広樹の奪い合いをするつもりはないが、私は彩夏の知らない広樹を知っている。
 勢いをつけて立ち上がる。タクミがびっくりしてまたベッドの中に避難した。
 私は、もう、大丈夫。
  グループ"朝日のあたる猫"
   Point(0)