支え続けるもの/佐野権太
引っ越したアパートは
薬屋の二階だった
辺りには小さな商店しかなかったが
近くに大きな川が流れていて
君の心を支えながら
よく土手を歩いた
神社には大きな桜の樹があって
薄紅の季節を想い
足をとめて、ふたり見あげた
眠れない雨の夜は
国道の走り去る飛沫を
遠い潮騒のように聞いていた
ひとりでアパートにいるのは淋しいからと
君は白い文鳥を買った
名前が決まらず、いい加減に呼んでいるうちに
いつか、その声に反応するようになった
自然に零れる笑みを見たのは
随分、久しぶりだったから
空を眺めるふりをして
窓枠にしがみついていた
薬屋のおばちゃんは、とても親切で
君の膨らみかけた腹を、さする手を
慈しむように見つめていた
殿様ガエルのように
リビングに腰を据えた君は
日毎、口やかましくなっていく、が
僕には、それが嬉しくてたまらない
(そろそろ、名前を考えないといけないな
文鳥が首を傾げて
きゅるきゅると喉を鳴らす
桜色のくちばしで
襟足をひっぱるから
くすぐったくってたまらない
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