沈黙の内側、ダイヤグラムは途切れたものばかりで体裁を整えている(4)/ホロウ・シカエルボク
いて、「こうだろう」と言わなければならないのだ。そんなこと出来るわけが―
何か聞こえた。
「間違っている。」
そんな風に聞こえた。そんな風に発せられたみたいに聞こえた。だが、確信は無かった。今そこにそんな声があったのかどうか疑ってしまうような、聞き取ることの出来るぎりぎりのボリュームだった。俺は腐臭を見た。やつだという気がした。現実だった。やったぞ、と俺は心の中でつぶやいた…俺はまだ現実の中にいたのだ。腐臭はうずくまっていた。口元がまだ動いていた。間違っている、と言っているみたいに見えた。だが、そこに音は無いみたいに見えた。俺はそのまましばらく腐臭を見つめた。唇はそう動いていた。間違っていると―間違っていると確かにそう動いていた。そのことについてはなにも間違いなど無かった、だが―俺にはそれがコンタクトであるとはどうしても思えなかった。その声はか細く、弱すぎた。だから俺はその声をコンタクトだとは思わないことに決めた。その声に関しては答えないことに決めた。
前 次 グループ"沈黙の内側、ダイヤグラムは途切れたものばかりで体裁を整えている"
編 削 Point(0)