奴への送らない手紙/たりぽん(大理 奔)
奴は
山に登るのだ
そう言っては、ニコン党のくせに
私のオリンパスを借りに来る
高山植物を撮るのだという
いつも汚い日焼け顔をしわくちゃにして
稜線を越えていくホシカラスの夫婦
山頂のケルンに引っかかって落ちない落陽
天幕のまわりを歩き回る夜中の足音や
星雲が凍る音のこと
本当か嘘かわからないことばかり
笑いながら、真剣に語って出発する
気を付けて帰ってこいと言う
私の話など聞くこともなく
いつだったか、奴は言った
俺は焼き鳥の串のような男になるのだと
串があるから異質な食材を同じ炎で料理できる
串は屈強なリーダーなのだ
そんな理屈にもならない理
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